新型コロナウイルスとお口の中の関係性
口腔ケアで新型コロナウイルスの感染と重症化を予防するDATA:2021.02.12
口腔内には驚くほど大量の細菌が生息しています。大人の口の中には、300~700種類の細菌が生息しているといわれます。細菌数に関しては、プラーク(歯垢)では、約1gあたり1,000億個の細菌が存在しています。唾液中にも細菌は多く存在し、1mlあたり1~10億個です。歯みがきをほとんど行わない人では、1兆個もの細菌がすみ着いているといわれています。
新型コロナウイルスの感染予防として、3密を避け、マスクの着用や手洗い、咳エチケット、換気等は、ご存じの事と思います。
実は、お口の中を清潔にし、歯周病や虫歯などがない健康な状態に保つ事は、新型コロナウイルスの感染リスクを低くするだけではなく、もし新型コロナウイルスに感染した場合でも、重症化を抑えられる可能性が高くなります。
睡眠や栄養の不足、過度なストレスを抱えていると免疫機能が低下し、病気に対抗できずに風邪や感染症などに罹患しやすくなります。正しい生活習慣を心がけることで免疫力を正しく維持させ、感染症に罹患しないようすることは重要です。
免疫力と口腔内の関係には深い関係があり、口腔内で多くの人に見られる慢性炎症は口の中の歯周病といわれる疾患です。炎症が発生していると免疫機能がうまく働かず免疫低下につながってしまいます。
また歯周病は、免疫力を低下させるだけでなく、口臭や虫歯及び全身疾患、持病の悪化にもつながります。口腔ケアを怠ったり、また歯科治療を先延ばしにしてしまうと、口腔内環境の悪化につながり、結果的に免疫力が低下してしまう悪循環となってしまいます。免疫力を正しく機能させ、リスクを減らすためにも口腔内の環境を清潔に保つ必要があります。
新型コロナウイルスの感染初期症状と味覚障害の関係
新型コロナウイルスの感染の初期症状として、味覚障害が多く起こる事があります。
それでは、なぜ新型コロナウイルスの感染の初期症状として、味覚障害が起こる事が多いのでしょうか。
基本的にウイルスは、細胞の表面に存在するACEⅡ(アンジオテンシン・ツー)と呼ばれる受容体(レセプター)がある細胞にのみ侵入して、増殖していきます。ACEⅡ受容体は、舌や口腔粘膜などの細胞の表面に多く存在しており、舌の細胞に新型コロナウイルスが侵入し感染すると、舌の味蕾細胞を破壊して、味覚障害という症状が表れてきます。
歯周病菌も関与している新型コロナウイル感染症
お口の中が健康な人は感染しにくく、重症化にもなりにくい
例えば、歯周病や虫歯などがあり、お口の中の細菌が多い人は、インフルエンザウイルス等にも感染しやすく、重症化しやすいことがわかっています。
口腔衛生状態が悪くなり、歯周病が悪化すると、歯茎の出血や腫れなどが起こってきます。つまり慢性的にお口の中に炎症が起こっている状態になります。ウイルスが結合するACEⅡ受容体は、細胞が感染して炎症が起きると、増加する性質があり、その結果、新型コロナウイルスが口腔粘膜の細胞に結合しやすい状態になります。そして、ACE2受容体に結合した後、タンパク質分解酵素プロテアーゼが、口腔粘膜の細胞表面を破壊し、ウイルスの細胞内への侵入を容易にしてしまい、感染のリスクが高まります。実は、このタンパク質分解酵素のプロテアーゼは、お口の中にいる歯周病菌も産生することがわかっています。
また、プロテアーゼを肺に誤嚥してしまうと、肺の奥にある肺胞が破壊されてしまい、肺炎になるリスクが高くなり、さらに新型コロナウイルスに感染するリスクが高くなってしまいます。
つまり、歯周病菌は、ACEⅡ受容体を増加させてしまうこと、歯周病菌が出すプロテアーゼという酵素が増えることにより、新型コロナウイルスの感染リスクを高めているということになります。このメカニズムは、インフルエンザウイルスの場合も類似します。
口腔ケアによるウイルス感染の重症化の予防効果
① ウイルス感染のリスクを低減
口腔内の衛生状態が悪化すると、お口の中の細菌数が増えます。口腔内細菌が出すタンパク質分解酵素は、ウイルスが粘膜細胞に感染することを促進させてしまいます。口腔内細菌を減らしておけば、ウイルス感染のリスクを下げることができる。就寝前の歯磨きが適切にできていないと、起床時のお口の中の細菌数は1,000倍にもなります。
② ウイルス性肺炎が重症化しにくい
お口の中の細菌は、普段から多少肺の中へ侵入しています。そのため、高齢者や免疫力の低下している方は、お口の衛生状態が悪いと細菌性肺炎を起こしやすくなります。また、細菌性肺炎を起こしていない方でも、ウイルス性肺炎を起こすと、免疫力の低下により細菌性肺炎を併発して重症化するリスクがあります。そのため、日ごろから口腔ケアをしっかりと行なうことが大切です。
③ 緊急時のVAP(人工呼吸器関連肺炎)の発症を予防
新型コロナウイルスによるウイルス性肺炎を起こすと、人工呼吸器を装着しなければならないことがあります。人工呼吸器をつけると、お口の細菌が肺に流れ込みやすくなるため、VAP(Ventilator-Associated Pneumonia=人工呼吸器関連肺炎)を発症しやすくなりますが、お口を清潔にしておくことでこのようなリスクも下げられます。
④ 腸内細菌を整えることで免疫力維持
ウイルス感染を防ぐためには、 免疫力を下げないことが重要です。 口腔内細菌は、食道→胃を通り腸内へ運ばれ、腸内細菌のバランスを乱し 免疫力を低下させます。 そのため、口腔ケアを行うことで 腸内細菌を整えることが 免疫力維持に繋がります。
口腔内の粘膜は、ウイルスが体内に入る前の最初の防御壁になるため、セルフケアとプロフェッショナルケアをしっかりしましょう
口腔ケアには、ご自身または介助する方が行うセルフケアと、歯科医院にて歯科医師や歯科衛生士が行うプロフェッショナルケアがあります。
セルフケア
・適切な歯ブラシを使って、毎日(なるべく 毎食後)すみずみまできれいに磨く。
・歯間ブラシやフロスなども活用して、歯垢を取り除き、歯石を予防する。
・摂食・嚥下がスムーズに行えるように、口腔リハビリや口腔体操、マッサージなどで口腔機能を維持する。
・栄養バランスの良い食事をよく噛んで食べる。
・自分で行えない場合は、家族や介護者が行う。
・歯科検診を定期的に受ける。など
プロフェッショナルケア
・全身状態やお口の状況に見合った口腔ケアのアドバイスを受ける。
・バイオフィルムや歯石の除去など、自分では不可能な範囲を専門的な歯科治療を受ける。
・口腔機能の維持や回復のため、治療や指導や受ける。
・フッ化物など、口腔トラブル予防のための薬剤の紹介やアドバイスを受ける。
前途のようにウイルスが体内に侵入するメカニズムを考えると「口腔ケア」が非常に重要になってきます。口腔ケアの重要性について再認識して、「マスク」」「手洗い」に「口腔ケア」をプラスしていただきたいと思います。
新型コロナウイルスに対する当院の取り組み
歯科治療は感染リスクが高いのではと不安な方もいらっしゃると思います。
歯科治療は、根本的に、新型コロナウイルス感染症が感染拡大される前より肝炎やエイズなどのウイルス感染対策を行っています。スタンダードプリコーション(感染症の有無に関わらず、全ての患者の血液、全ての体液、汗を覗く分泌物、排泄物、傷のある皮膚、そして粘膜などをすべて感染原因になりうるという考え予防策を講じること)に基づいて診療を行っております。
コロナウイルスに対する当院の行っている取り組みがこちら
・出勤するスタッフの体温測定
・定期的な換気
・患者さまの入室時の検温及び手指消毒
・治療中はゴーグル、マスク、フェイスシールドの着用
・回転切削器具、ドリル、超音波のチップなども含め治療器具は患者様一人一人で交換し滅菌
・エプロン、コップ、清掃用のブラシなど使い捨てにできるものは全て使い捨てに
・待合室の⼈数をできる限り少なくして「密集、密接」を回避
・待合室・診療室への空気清浄機の設置
・ソーシャルディスタンス(社会的距離)確保の徹底
・治療内容により、可能な限り予約間隔や使⽤ユニットの調整を行う
・治療椅子、ドアノブなど院内の手に触れる箇所全てを消毒液によって清拭
・マスクやグローブの患者様ごとの交換
・感染予防対策として受付にビニールカーテン等を設置している
・歯科医師会や各学会等の指針や情報に基づいた対策を行っている
・事前問診、感染疑い症状がある場合の電話等による事前対応のお願い
・37.5℃以上の発熱・のどの痛み・せき・だるさなどの症状、あるいは嗅覚異常、味覚異常などの症状がある場合にはなるべく診療を延期していただく
・患者さまの治療時以外のマスクの着用など